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さまざまな分野で活躍する、その道の達人を紹介

仕事人第5回

仕事人 File No.5

大井 実

大井 実  Minoru Oi

1961年福岡市生まれ。

同志社大学文学部卒業後、東京、大阪でイベントやアート関連の仕事に携わる。

1999年帰福、2001年ブックスキューブリック開業。

 

仕事人第5回目に登場頂いたのは、「ブックスキューブリック」を経営する大井実(おおい みのる)さんです。1月11日福岡大学で行なわれた仕事人講座には、多くの学生が参加し大井さんの仕事に対する思いに真剣に耳を傾けていました。
大井さん自慢のお店と、お薦めの本の紹介も交えた仕事人講座です。

 

本好きな、時間のない社会人のためのコンシェルジュに

景気のいい時代に20代を過ごし、華やかで刺激的な毎日にあっという間に時間が過ぎました。イベント関係の仕事をしていたサラリーマン時代から、漠然と独立を考えてはいたんですが、具体的に動き始めたのは30歳を過ぎた頃。それまでの経験や性格上から、スポンサー・クライアントにあまり左右されない仕事をしたいと考えていたんです。特定のクライアントを必要とせず、文化に関われるような仕事・・・商売への憧れ・・・自分の仕事が評価されているか、社会的影響力がどんなものなのかが分り易い、地道な仕事がしたいと思っていました。そんな思いから本屋という選択肢が出てきました。

 

本屋をやろうと思って調べていると、確かに小さな書店がどんどん廃業していってるのを知りましたが、大きな本屋でも結構行き詰っているようなんです。それは書店業界の独特な販売システムによるものも大きいと思いました。「再販制度」と「委託制度」という2大制度があるんですけど、これのお陰で小さな書店が今までやってこれたと言っても過言ではないんですが、反面、これのせいで仕入れの努力をしてきていない書店が実に多いんです。「金太郎飴書店」という言葉があるんですが、規模の違いだけで、どの店に行こうが一緒、特色がないという・・・。どこに行っても一緒なら、立地の良い場所に出店できるお金のあるお店が有利ですよね。だから、 (品揃えの面で)特色を出すってことが大事だし、それが自分のやりたい本屋だ!とコンセプトがしっかりしたんです。

 

数の揃った大きな本屋は、店内を回るのに時間がかかるでしょう?ウチのお客さんは社会人の方が多いのですが、そんなに暇じゃないと思うんです。ウチは全部見て回るのに5分くらい(笑)。探す手間を省くために、ニーズに合わせた本を絞って、しっかりセレクトすれば、狭いスペースでも勝負できると思いましたね。だからと言って、専門書店にはしたくなかったんです。あくまで「街の本屋さん」というスタンスでいたい。ただ、「大人向け」というのは最初から意識してましたからコミックは置かないことにしました。コミックには万引きに合いやすいというデメリットもありますし。それに、小さな本屋だからこそできることとして、コミュニティにしっかり対応できるんです。ウチは「取り寄せ」に力を入れています。お客様の注文に迅速に応える小回りの良さ。限りある在庫の背後に無限の在庫があることを示せば、たくさん並べなくても大丈夫なんです。それから、大きな本屋だと自分の興味のある所にしか行かないでしょう?ウチくらい小さいと興味のなかったジャンルにも目がいくんです。そんな人のために優秀なガイドになれるようなセレクトを心がけています。

 

開店までの道のり

◎本屋を始めるにあたって取り組んだこと

本屋をやるぞ!と会社を辞めて、本で色々調べるとともに、実地修行として書店でバイトすることを考えました。37歳でした。求人募集の有無に関係なく、電話帳で片っ端から電話を掛けました。そして1軒の本屋に履歴書を送ることになりました。「本屋を開きたい」という熱い思いを書いたものです。ほどなくして店長に呼ばれ、採用の知らせかと喜んで会いに行くと、「本屋になりたいなんて馬鹿なことはおやめなさい」という忠告と説得のためでした(苦笑)。でも、どうしても働きたいと訴えて採用してもらったんです。

 

やっぱりやってみないと分からないものですね、初日からものすごくハードだったんです。あまり人が続かない職場だと聞いてましたけど、さもありなんと思うほど、本当にきつい仕事です。でも、この体験は本当に貴重でした。やって良かった。書店業界の仕組みや、それに伴うロス、雑誌の種類の知識、様々なことを文字通り体得することができました。自分の店に置く商品リストの作成に、ものすごく役立ちました。

 

◎偶然の符合

このバイトは1年間続けたのですが、その間に物件を探したり、起業家のためのセミナーに出席したりしていました。その時にちょっと不思議な経験をしました。

 

物件探しにおいて、立地の良さを取れば家賃が高いし、家賃の安さに惹かれてもあまり郊外では自分の思い描く品揃えが受けにくい、というジレンマに悩みながら、橋のたもとの物件を仮押さえしていた時に出席したセミナーでのことです。その時の講師はランチェスター経営でご存知の方も多い竹田先生でした。私自身は当時は先生のことを知らずにいたのですが、とてもためになる講義でした。それも終盤にさしかかり、立地の話になりました。物件を探していた私には興味深いところです。すると、一概には言えないもののかなりの確率で悪いと言えるのが「橋のたもと」と「坂の途中」だとおっしゃるのです。それだけでなく、具体例として上げたのが、まさに私が仮押さえしている物件だったのです。驚きました。

 

そして、座っていた席の関係でたまたま著書を頂き、帰宅して妻に話したところ、仕舞っていた皿を出しながら聞いていた妻が驚きの声を上げました。その皿をくるんでいた新聞紙に竹田先生の著作の広告が載っていたのです。こんな偶然が続くでしょうか?これは、あの物件はやめろという啓示だと思いました。

 

それから、同じ週に今の物件を見つけることになるんですよ。けやき通りは、出店したい所の一つでしたが、家賃が高いのでね・・・でも自転車で通りかかった時に予定建築物のプレートがかかっているのが目に留まりまして、見ると店舗3軒って書いてあるんです。販売事務所に飛び込んで話を聞くと、賃貸ではなく分譲物件だったんです。でも、販売会社の設立日が私の生年月日と同じだったんです。何かここにも偶然の符合を感じまして、借金して手に入れました。

 

Q.起業のために貯金してましたか?

コツコツしてました。500万円貯めました。

 

Q.起業の不安は?期待は?

イメージで先走る傾向があるせいか、あまり不安はありませんでした。リサーチをしっかりやったというのもありますが。40、50になってからではきついと思ってましたし、30代のうちなら失敗しても取り戻せるぞ、というくらいの覚悟はありました。

 

Q.本屋は儲からないという周りの声に対しては?
自分のリサーチで、大型店も行き詰ってる、個人商店だから儲からないという図式じゃないということが分かっていましたから、やり方、取捨選択を間違わなければ十分戦えるという自信がありました。

「やりたいからやるんだ!」っていう思いでしたね。

 

この仕事をしていて良かったこと・思うこと

商売というのは根元的なものだと考えます。畑を耕すような農業的な仕事。地産地消というように、地域の人が地域のお店で買って地域にお金を落とす。そんなコミュニティの結びつきが大事だなぁ、とね。

 

アメリカ的資本主義を突き詰めたやり方=売上(利益)至上主義が、効率化・システム化を生み、その象徴ともいえるのがコンビニやスーパー、ファストフード店などの普及。その結果、商店街など地域密着型のお店は衰退の一途です。しかし全体がシステム化に進む一方で、手仕事の良さを見直す動きがあるのも確かです。「街の本屋さん」になろうと思った一因ですね。イタリアには小さな個人商店が多くて、どこも自分のカラーで勝負しているんです。それで成り立っている街を見て、素敵だなぁと思いましてね。地域と結びついて特色を出せるようなお店を出したいと思いました。

 

それで始めてみたところ、正直に誠実にやっていれば、評価してくれる人(=お客様)がいるということがダイレクトに判る。これは精神衛生上、素晴らしいことです。また、極端な言い方ですが、人を騙したりしてお金を得ていないということ。自分たちの為に誰かが泣くようなことが起こり得る仕事ではないということです。自分の地道な努力が支持者を獲得していくというところが、職人的で実に気持ち良いことです。世に言う「勝ち組」とか「負け組」とか、経済な尺度だけで人生計れるものじゃないと思います。人生にはいろんな道があって、それぞれの成功は自分なりに評価できればいいと思います。自分の人生は他人でなく自分が評価する、そういう気概みたいなものは、いろんな体験のみによって築かれていくものだと思います。

 

大井さん推薦図書

◎「アルケミスト」

◎「自分の仕事をつくる」

◎「就職しないで生きるには」

◎「祖国とは国語」

 

<編集後記>

本屋が好きだ!という思いや、お店に対する愛情が、聞いていてビシビシ伝わってきました。しっかりとした口調で、論理的に展開される話には説得力があります。漠然と考えてはいたが、行動に移せたのは30歳を過ぎてから・・・という件には、勇気をもらったような気がします。自分が何をしたいのか・何をすればいいのか、分からなくて投げやりになっている方には、焦らずゆっくり探してみようという気になれたのではないでしょうか。また、不思議な偶然の符合の話を興味深く聞かせて頂きましたが、大井さんの情熱があってこそだったのでしょう。「思えば通ず」―それを自らの努力で現実にした、大井さんでした。

 

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